天正18年、7月8日のこと。
 
我が敵、豊臣の軍勢がついに八王子城を落とし、我らが檜原城を目指して進軍しつつあるという情報が入った。
 
敵の軍勢がここ檜原城に達するまで、時の猶予はせいぜい3日。
 
鉄壁の守りを誇る我が檜原城とはいえ、ここまで兵力に差があれば多勢に無勢、たとえ交戦したとしても長くはもたんじゃろう。
 
先日攻め落とされた八王子城での戦いは、悲惨なまでに多数の死傷者を出し、川は何日もの間赤く染まったという。
 
 

戦うのか、明け渡すのか。
立ち向かうのか、逃げるのか。
何を捨て、何を守るべきなのか・・・。
 
 
最後まで抗い、戦場に散ることで守れるものもあれば、這ってでも生きることで守れるものもある。
 
来るべき「その時」に、己がどう振る舞うべきかを自ら決める、それが武士の生き様の真骨頂よ。
 
 

しかし、ワシにはひとつだけ心残りがある。
息子の氏久だ。
 
やつはまだ若い。
やつが「その時」を自らの意思で受け止め、決める力があるかどうか・・・ワシには確信がない。
 
城主といっても特段豊かでもなく、民の生活を守るための細々とした仕事に忙殺されていたワシは、
これまで息子の氏久とゆっくり2人で語り合う時間を持てずに来た。
 
 
・・・時代は変わる。
これが最後の機会になるやも知れん。
 
 
 

その夜、わしは氏久を庭に呼び出した。
 
そして、ついにすぐそこまで敵が迫っていること、生きるか死ぬかの決断の時が近づいていることを、伝えたのだ。
 
 
 
しかし次の瞬間・・・急に嵐のような突風が吹いたかと思うと・・・
 
 

急に発生した時空の歪みに巻き込まれたんですね。
 
おそらく、身体が浮き上がるような感覚の直後、地面に叩きつけられるような衝撃があったでしょう。
 
 
 

その通りだ。
 
気づいたら、景色は見慣れぬ様相に変わり、そして息子の氏久はいなくなっておった。
  
 
・・・この時代にやってきてもう2日たつ。
もう、時間がないのじゃ。
そう遠くにはいないはずだが・・・一体、どこに行ってしまったのだ。
何の音沙汰もないとは・・・。
 
 

 あっ、もしかして・・・
今朝、差出人不明の封書が、役場の前に落ちてたのを拾ったじゃが!
 
 

なに!
 
 

それだな。
ほう、何通かあるじゃないか・・・
まずは、「手紙其の一」の封筒を開けて、中を見てみるんだ!
 
 
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